いと頭おかしいスメハラ臭臭クレーマーに捧げる鎮魂歌
マルカメムシはロビーの片隅で、じっと体を硬直させていた。
思い返すのは、数日前のこと。
カマキリに丁寧に事情を説明し、フロントでの対応を依頼した自分の声。
書類にメモを取る姿、真剣にうなずく態度。
「これで何とかなるはずだ」と、わずかな希望を胸にした瞬間のこと。
だが現実は無情だった。
カマキリは報告も相談もなく、寄生済みのまま忽然と姿を消した。
フロントの対応は進展せず、何の解決ももたらさなかった。
マルカメムシの触角は小刻みに震え、口の中で舌打ちを繰り返す。
「いったい、何のために相談したのだ…」
怒りが、ロビーの蒸し暑い空気の中でむっと立ち上がる。
彼はフロントカウンターの書類棚を覗き込み、メモ用紙を手に取る。
カマキリの名前が書かれた行に、確認印はなく、空欄が広がる。
何度も声を出して抗議を試みるが、猫の呼吸に押し流される。
「報告がない、対応がない、何も進まない…!」
小さな叫びが、空気の中で揺れ、熱で膨らんだまま消えていく。
支配人幼虫はカウンター奥で帳簿を整理しながら、触角の端でその様子をうかがう。
「カマキリの突然の飛行は日常茶飯事」と、冷静に思い、目の前のフンコロガシVIP対応に集中する。
マルカメムシの苛立ちは、幼虫にとって小さな渦に過ぎない。
それでも、マルカメムシにとっては全世界が不条理に見える瞬間だった。
彼はフロントに電話をかけようと触角を伸ばすが、受話器に届く声は熱気にかき消される。
帳簿をめくり、過去のメモを確認し、進展を確認しようとする。
しかし空白のページと、フロントの無言だけが残る。
怒りと無力感が体中に広がり、触角の先から小さな火花のように迸る。
猫は丸まったまま、ただ目を細め、口内でうごめくマルカメムシを受け入れる。
ロビーのベルは小さく鳴り、支配人幼虫は静かに目を細める。
ホテルスタッフは今日もみなゲストのために笑顔を絶やさない。
進展のない抗議、消えたカマキリ、押し流される声。
それでもホテルはいつも通りに動き、蒸し暑い空気と、匂い、そして苛立ちだけが残る。

